モルディブ国歌「我らが国家への敬礼」:インド洋の真珠が歌う独立と連帯の賛歌

モルディブの国旗

インド洋に浮かぶ真珠のような島々、モルディブ共和国。その美しい海と豊かな自然に恵まれたこの国が、自らのアイデンティティと独立の精神を歌い上げるのが国歌「我らが国家への敬礼」(Qaumee Salaam)です。

この歌は、モルディブの歴史、国民の信仰、そして未来への希望を凝縮した感動的な賛歌であり、国民の連帯感を育む大切な役割を担っています。今回は、このモルディブ国歌の成り立ちから歌詞に込められた深い意味、そしてその音楽的特徴までを詳しく探っていきましょう。

国名
モルディブ共和国 (日本語)
Republic of Maldives (英語)
ދިވެހިރާއްޖޭގެ ޖުމްހޫރިއްޔާ (ディベヒ語)
国歌
我らが国家への敬礼 (日本語)
Salute to the Nation (英語)
ގައުމީ ސަލާމް (Qaumee Salaam, ディベヒ語)
作曲者
バーラト・ブーシャン (Bharat Bhushan)
作詞者
モハメド・ジャミール・ディディ (Mohamed Jameel Didi)
制定年
1972年 (現行の歌詞と曲調で正式制定)
キー (調性)
ニ長調 (D Major)。この調性は、明るく、力強く、勝利や栄光を表現するのに適しているとされています。

モルディブ国歌の成り立ち

モルディブ国歌「我らが国家への敬礼」は、比較的新しい歴史を持つ国歌の一つです。そのルーツは、1948年に当時のモルディブのスルタンの歓迎式典のために作曲された行進曲に遡ります。この曲には当初歌詞がなく、スルタンが姿を現した際に演奏される「スルタンの挨拶」として用いられていました。

モルディブがイギリスの保護領から独立の道を歩み始める中、国家としてのアイデンティティを確立するため、国歌の必要性が高まりました。そして1972年、当時の教育省長官であったモハメド・ジャミール・ディディがこの行進曲に歌詞をつけ、それが現在の「我らが国家への敬礼」として正式に採用されることになります。

興味深いのは、曲を最初に作曲したのがインドの作曲家バーラト・ブーシャンであったという点です。ディディは、もともとブーシャンが作曲したメロディに感銘を受け、これにモルディブの歴史や文化、そして独立への思いを込めた歌詞を書き上げたのです。この連携により、単なる行進曲が、モルディブ国民の心を一つにする国歌へと昇華しました。

モルディブ国歌の歌詞の解説

モルディブ国歌の歌詞は、ディベヒ語で書かれており、祖国への深い愛情、イスラム教への信仰、そして独立と国民の連帯を強く訴えかけています。以下に原語、英語訳、日本語訳を提示し、その主要なテーマを掘り下げていきます。

ディベヒ語 (原語) 英語訳 (公式訳詞 “Salute to the Nation”) 日本語訳 (試訳)
ގައުމީ މިއިއްޒަތުއް ދިވެހީންނަށް ވެގެން އެންމެ ފުރިހަމަ ސަލާމް In national unity, Maldives salutes you. この国民的栄光のモルディブに、最も完全な敬礼を捧げよう。
އެބުރިވެސް ދިވެހީން ކުރާށީ ގައުމަށްޓަކައި ފިދާވުމަށް ޢަޒުމް With the resolve to sacrifice for the nation, the Maldivians continue. モルディブ人は国家のために犠牲となる決意を持って、進み続けよう。
މީ އަޅުގަނޑުމެންގެ ޤައުމީ މިސަލާމް، ދިވެހީންގެ ޤައުމީ ސަލާމް This is our national salute, the national salute of the Maldivians. これは我らの国家への敬礼、モルディブ人の国家への敬礼である。
ޤައުމީ މިއިއްޒަތުއް ދިވެހީންނަށް ވެގެން އެންމެ ފުރިހަމަ ސަލާމް In national unity, Maldives salutes you. この国民的栄光のモルディブに、最も完全な敬礼を捧げよう。
ކޮންމެ ދިވެއްސަކު ޢަޒުމާ އެކު، އިންސާފަށް ހުރެފާ ސާބިތުވޭ Every Maldivian, with resolve, stands firm for justice. すべてのモルディブ人は、決意を持って正義のために固く立ち上がれ。
ދީނަށްޓަކައި ގިނަ ޤުރުބާނީއެންމެން އެކުގައި ކުރާށީ ޤަޞްދު With unity, everyone will make many sacrifices for the religion. 一致団結して、誰もが宗教のために多くの犠牲を払うことを誓おう。
ޤައުމީ މިއިއްޒަތުއް ދިވެހީންނަށް ވެގެން އެންމެ ފުރިހަމަ ސަލާމް In national unity, Maldives salutes you. この国民的栄光のモルディブに、最も完全な敬礼を捧げよう。
ކޮންމެ ދިވެއްސަކު ޢަޒުމާ އެކު، އިންސާފަށް ހުރެފާ ސާބިތުވޭ Every Maldivian, with resolve, stands firm for justice. すべてのモルディブ人は、決意を持って正義のために固く立ち上がれ。
ގައުމަށްޓަކައި ކުރާހިނދު ފިދާ、 އިންސާފަށް ހުރެފާ ސާބިތުވޭ When sacrificing for the nation, stand firm for justice. 国家のために犠牲を払うとき、正義のために固く立ち上がれ。
ނަސްރާ ނުލާ ދުލެއް ނުކުރާނެ މިގައުމަށް ހިފާ ނަސްރު Victory will not be given up without this nation achieving victory. この国家が勝利を収めるまで、勝利を諦めないだろう。
ދިވެހިރާއްޖެއެމެންގެ ތެރޭގައި、 ގައުމީ ދިދަ ވިދާޅުވަފާނެ Among us in the Maldives, the national flag will shine. 我らモルディブの中で、国旗は輝き続けるだろう。
ގައުމީ މިއިއްޒަތުއް ދިވެހީންނަށް ވެގެން އެންމެ ފުރިހަމަ ސަލާމް In national unity, Maldives salutes you. この国民的栄光のモルディブに、最も完全な敬礼を捧げよう。

モルディブ国歌の主要なテーマと象徴性

  • 祖国への敬意と献身:

    歌詞の冒頭から繰り返される「我らが国家への敬礼」というフレーズは、モルディブに対する国民の深い敬意と忠誠心を表しています。また、「国家のために犠牲となる決意」という言葉は、祖国を守るための強い覚悟を示しています。これは、モルディブが長年にわたり外国勢力の支配を受け、苦難を乗り越えてきた歴史を反映しているとも言えるでしょう。

  • イスラム教への信仰:

    宗教のために多くの犠牲を払う」という節は、モルディブがイスラム教を国教としていることを明確に示しています。イスラム教はモルディブの文化、社会、法制度の根幹をなし、国民生活に深く根ざしています。国歌においてその信仰が強調されることは、モルディブの国民的アイデンティティを形成する上で、宗教がいかに重要であるかを示しています。

  • 正義と連帯:

    正義のために固く立ち上がれ」という呼びかけは、国民が一致団結して公正な社会を築き、国家の繁栄のために協力することの重要性を訴えています。モルディブは小規模な島嶼国家であり、国民の連帯が国家の存続と発展にとって不可欠です。

  • 独立と勝利への希望:

    この国家が勝利を収めるまで、勝利を諦めないだろう」という力強い宣言は、モルディブが長きにわたる植民地支配から独立を勝ち取った歴史と、未来への不屈の精神を表現しています。国旗が輝き続けるというイメージは、国家の永遠の繁栄と独立の象徴です。

モルディブ国歌の音楽的特徴と関連情報

モルディブ国歌は、もともと行進曲として作曲されたため、そのメロディは力強く、威厳に満ちています。ニ長調の明るい響きは、希望に満ちた未来と国家の繁栄を表現するのに最適です。リズムは明確で、歌いやすく、国民が一体となって歌い上げやすいように設計されています。特に、冒頭の堂々としたファンファーレのような旋律は、聴く者に強い印象を与えます。

楽譜・MIDIデータ、公式音源

この国歌の楽譜やMIDIデータは、以下の信頼できる外部サイトで入手できます。外部サイトへのリンクは別ウィンドウで開きます。

モルディブ共和国の国歌「国家敬礼」の視聴

インストルメンタル (演奏のみ) バージョン:

歌唱 (独唱/合唱) バージョン:

Maldives

Maldives

Maldives

文化的影響/エピソード

モルディブでは、国歌は学校の式典や公的な行事だけでなく、スポーツイベントなどでも頻繁に演奏され、国民の愛国心を高める重要な役割を担っています。特に国際的な舞台でモルディブ代表選手が活躍する際には、国歌が演奏されることで国民の連帯感と誇りが一層高まります。

モルディブが直面している地球温暖化による海面上昇問題は、国家の存続に関わる深刻な課題です。このような状況下で、国歌が歌い継がれることは、国民が一致団結して困難に立ち向かい、未来を切り開くための精神的支柱ともなっています。歌詞に込められた「勝利を諦めない」というメッセージは、彼らにとって現実的な意味合いを強く持っているのです。

結び

モルディブ国歌「我らが国家への敬礼」は、単なる歌ではありません。それは、インド洋の真珠と称されるこの美しい国の独立への道のり、国民の信仰、そして未来への揺るぎない希望を凝縮した魂の叫びです。この国歌を通じて、私たちはモルディブの豊かな歴史と文化、そして困難に立ち向かう人々の強さを感じ取ることができます。次にモルディブ国歌を耳にする機会があれば、ぜひその歌詞とメロディに込められた深い意味を心に留めてみてください。

モルディブ国の概要

正式名称
モルディブ共和国 (日本語)、Republic of Maldives (英語)、ދިވެހިރާއްޖޭގެ ޖުމްހޫރިއްޔާ (ディベヒ語)
首都
マレ (Male, ディベヒ語: މާލެ)
独立年
1965年7月26日 (イギリスから)

公用語
ディベヒ語
面積
約298平方キロメートル (陸地面積、世界最小級の国)
人口
約52万人 (2023年推定)
通貨
モルディブ・ルフィア (MVR)
民族
主にディベヒ人
宗教
イスラム教 (国教)

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