中華人民共和国の国歌「義勇軍進行曲(March of the Volunteers)」は、単なる国の歌ではありません。それは、激動の歴史の中で中国人民が経験した苦難、揺るがぬ抵抗、そして自由と独立への切望を体現する魂の歌です。この雄大な歌は、国民の連帯感を育み、国家としての誇りを呼び起こす、かけがえのない存在となっています。この中国国歌の意味や歴史を深く掘り下げていきましょう。
- 国名
- 中華人民共和国
- 曲名
- 日本語:義勇軍進行曲
中国語(簡体字):义勇军进行曲 (Yìyǒngjūn Jìnxíngqǔ)
英語:March of the Volunteers - 採用時期
- 1949年9月27日(国歌として制定)、1982年12月4日(正式に憲法で規定)
- 作曲者
- 日本語:聶耳(ニエ・アル)
中国語(簡体字):聂耳 (Niè Ěr)
英語:Nie Er - 作詞者
- 日本語:田漢(ティエン・ハン)
中国語(簡体字):田汉 (Tián Hàn)
英語:Tian Han - キー (調性)
- 主にト長調で構成されており、堅固で、前向きな行進曲の特性を持っています。堅固なリズムと上昇するメロディラインは、聴く者に勇敢さと希望を感じさせます。
中華人民共和国国歌「義勇軍進行曲(March of the Volunteers)」の誕生と採用の過程
義勇軍進行曲の歴史は、中国が最も苦難に直面していた時代にさかのぼります。この歌は、1930年代に日本の侵略が本格化する中で生まれた愛国的な歌であり、当初は映画の主題歌として制作されました。
映画「風雲児女」の主題歌として
1935年、中国は日本の侵略に直面し、国家存亡の危機に瀕していました。この時代背景の中、救国運動を鼓舞するために映画「風雲児女(Sons and Daughters in a Time of Storm)」が制作されます。この映画は、日本の侵略に抵抗する若者たちの愛国的な闘いを描いたもので、当時の中国人民の苦境と希望を映し出していました。その内容は、当時の国民の愛国心を強く刺激し、主題歌とともに瞬く間に広がり、大きな反響を呼びました。
作詞家の田漢(ティエン・ハン)は、この映画の主題歌として詩を書き上げました。田漢は、かつて東京師範学校(現・筑波大学)に留学経験があり、帰国後は左翼劇運動の中心人物として活躍しました。 彼は、国民が立ち上がり、外敵に抵抗するよう呼びかける歌詞を、逮捕される直前の獄中で、タバコの包み紙の裏に書き記したという逸話が残っています。
この歌詞に曲をつけたのが、若き作曲家、聶耳(ニエ・アル)です。彼の本名は聶守信(ニエ・ショウシン)ですが、音楽に対する並外れた聴覚を持っていたことから、「耳」という字をペンネームに用いたと言われています。 彼は、日本の帝国主義に抵抗する人民の闘争精神を表現するため、堅固で、情熱的なメロディを生み出しました。聶耳は当時、抗日運動の拠点であった上海で活動しており、この曲は彼の最も有名な作品となりました。しかし、聶耳は1935年、わずか23歳という若さで日本へ向かう途中で急逝しました(溺死説が一般的です)。彼の死は、中国音楽界にとって大きな損失となりましたが、彼が残したこの曲は永遠に生き続けることになります。 映画「風雲児女」が公開されると、「義勇軍進行曲」は瞬く間に中国全土に広がり、抗日戦争における人民の士気を高める代表する歌となっていきます。
国歌への採用
第二次世界大戦が終結し、国共内戦を経て中華人民共和国が建国されると、新たな国家の体現が必要となりました。1949年9月27日、中国人民政治協商会議第一回全体会議において、「義勇軍進行曲」を中華人民共和国の暫定的な国歌とすることが決定されました。その理由は、この歌が中国人民の革命闘争の歴史と精神を最もよく表していると考えられたからです。
しかし、国歌としての正式な地位は、しばらくの間、暫定的なままでした。文化大革命期には、作詞者の田漢が批判の対象となり、この歌の歌唱が制限される時期もありました。その後、文化大革命が終結し、改革開放が進む中で、この歌の歴史的意義と国民的感情が再評価されます。
そして、1982年12月4日、中華人民共和国第五期全国人民代表大会第五回会議において、新たな憲法が採択されると同時に、「義勇軍進行曲」は正式に中華人民共和国の国歌として憲法に明記されました。これにより、この歌は国家の最高法規によってその地位が保障されることになりました。さらに、香港が中国に返還された1997年、そしてマカオが返還された1999年には、それぞれ特別行政区の国歌としても公式に採用され、その地位を確固たるものにしました。
現在に至るまで、「義勇軍進行曲」は中国の発展とともに歌い継がれ、国家の団結と繁栄を体現する存在として不動の地位を確立しています。
中華人民共和国国歌の歌詞の解説
中国国歌「義勇軍進行曲」の意味は、簡潔ながらも非常に堅固で、中国人民が直面した危機と、それに対する勇敢な抵抗の精神を鮮明に描き出しています。
| 日本語訳 (Japanese Translation) | 簡体字中国語 (Simplified Chinese) | 英語訳 (English Translation) |
|---|---|---|
|
立ち上がれ!飢えに苦しむ人々よ! 立ち上がれ!この世のすべての不幸な人々よ! 我らの血潮をもって新たな長城を築こう! 中華民族には最も危険な時が来た! 一人ひとりが怒りの雄叫びをあげる時だ! 立ち上がれ!立ち上がれ!立ち上がれ! 我々は何万もの心を一つにして、 敵の砲火を物ともせず前進する! 敵の砲火を物ともせず前進する! 前進する!前進する!前進する! |
起来!不愿做奴隶的人们! 把我们的血肉,筑成我们新的长城! 中华民族到了最危险的时候, 每个人被迫着发出最后的吼声。 起来!起来!起来! 我们万众一心, 冒着敌人的炮火,前进! 冒着敌人的炮火,前进! 前进!前进!前进! |
Arise, ye who refuse to be slaves! With our flesh and blood, let us build our new Great Wall! The Chinese nation faces its greatest danger, Every person is forced to let out a final roar. Arise! Arise! Arise! We are millions with but one heart, Braving the enemy’s gunfire, march on! Braving the enemy’s gunfire, march on! March on! March on! March on! |

太和殿 Hall of Supreme Harmony / 中國北京紫禁城 Forbidden City, Beijing, China / SML.20140430.6D.31415.P1 / See-ming Lee 李思明 SML

四合院的轉變 The transformation of siheyuans (historic residence) / 中國北京 Beijing, China / SML.20140503.6D.31961.P1 / See-ming Lee 李思明 SML

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中華人民共和国国歌「義勇軍進行曲(March of the Volunteers)」の歌詞に込められた意味
- 「立ち上がれ!奴隷になりたくない人々よ!」(起来!不愿做奴隶的人们!):
この冒頭の一節は、国歌全体の基調をなす核心的なメッセージです。単なる呼びかけではなく、民族としての尊厳を守り、いかなる抑圧にも屈しないという強い意志を表明しています。これは、当時の日本の侵略に対する抵抗の精神が色濃く反映されたものであり、同時に普遍的な自由への希求を表しています。 - 「我らの血肉をもって、我らの新たな長城を築こう!」(把我们的血肉,筑成我们新的长城!):
万里の長城は、中国の防衛と国家統一を代表するものです。ここでは、文字通りの物理的な長城ではなく、人民一人ひとりの生命と犠牲によって、祖国を守るための精神的・物理的な壁を築き上げることを意味しています。国民が一丸となって国を守るという、堅固な決意と連帯感を雄弁に訴えかけています。 - 「中華民族には最も危険な時が来た!」(中华民族到了最危险的时候,):
当時の日本の侵略により、中国がまさに国家存亡の危機に瀕していた状況を率直に表現しています。この危機感こそが、人民を立ち上がらせる原動力となることを示唆しています。 - 「一人ひとりが最後の雄叫びをあげる時だ!」(每个人被迫着发出最后的吼声。):
「最後の雄叫び」は、極限状態における人民の決死の抵抗と、これ以上は後がないという覚悟を体現しています。これは、民族の尊厳と自由のために命を賭して戦う覚悟を促す言葉です。 - 「我々は何万もの心を一つにして、敵の砲火を物ともせず前進する!」(我们万众一心,冒着敌人的炮火,前进!):
「万衆一心(全ての人民が心を一つにする)」という言葉は、民族全体の団結と一体感を強調しています。そして、「敵の砲火を物ともせず」という表現は、いかなる困難や危険にもひるまず、目標に向かって突き進む揺るがぬ精神を表しています。繰り返される「前進!」は、目標達成への堅固な決意と行動への推進力を示しています。
音楽的特徴と関連情報
「義勇軍進行曲」は、堅固で明瞭なリズムと、覚えやすいメロディが特徴です。行進曲としての要素が強く、聴く者に高揚感と士気を鼓舞する効果を持っています。ト長調で書かれているため、明るく前向きな印象を与えつつも、歌詞の持つ切迫感と相まって、感動的な堅固さを生み出しています。
楽譜・MIDIデータ、公式音源
この国歌の楽譜やMIDIデータは、以下の信頼できる外部サイトで入手できます。(外部リンク、別ウィンドウで開きます)
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演奏バージョン
合唱バージョン
文化的影響とエピソード
「義勇軍進行曲」は、中華人民共和国が成立する以前から、中国人民の心に深く根ざした歌であり、その影響は多岐にわたります。
- 抗日戦争の精神的基盤: 映画の主題歌として発表されて以来、この歌は日本の侵略に対する抵抗運動の重要な精神的基盤となりました。多くの中国人が、この歌を口ずさみながら戦場へ向かい、あるいは占領下の困難な日々を乗り越えました。
- 国民的団結を体現する存在: 中華人民共和国建国後、この歌は国家の統一と国民の団結を促す存在となりました。特に、建国初期の困難な時期や、その後の国家建設の過程において、人民を鼓舞する役割を果たしてきました。また、アメリカの著名な歌手ポール・ロブソンは、「義勇軍進行曲」を英語圏に紹介し、その歌唱による印税を田漢の遺族に送付したという感動的な逸話も残っています。これは、この歌が国境を越えて人々の心を動かした証と言えるでしょう。
- 「長城」の新たな意義: 歌詞にある「新たな長城」という表現は、単なる物理的な防壁を超えて、国民一人ひとりの揺るがぬ精神と連帯が、いかなる困難からも祖国を守るという象徴的な意義を持つようになりました。
- 公式行事と日常: 現在、この国歌はオリンピックなどの国際スポーツイベント、外交式典、国家の重要な祝賀行事などで演奏され、歌唱されます。また、学校教育やメディアを通じて、若い世代にもその歴史と意義が伝えられ、国民のアイデンティティの一部として深く浸透しています。近年では、国歌の尊厳を守るための法的措置も講じられています。2017年には「国歌法」が公布され、公の場での国歌冒涜行為に対しては、3年以下の懲役または罰金が課される可能性があるなど、その法的保護が強化されました。
結び
中華人民共和国国歌「義勇軍進行曲」は、中国人民が困難な時代を乗り越え、自らの手で新たな国を築き上げた歴史の証です。その堅固な旋律と、自由と独立、そして団結への切なる願いが込められた歌詞は、これからも中国人民の心を鼓舞し続けることでしょう。この歌に耳を傾けることで、中国の近代史における揺るがぬ精神と、未来へ向かう堅固な歩みを感じ取ることができます。
中国の概要
- 正式名称
- 日本語:中華人民共和国
中国語(簡体字):中华人民共和国
英語:People’s Republic of China - 首都
- 日本語:北京
中国語(簡体字):北京 (Běijīng)
英語:Beijing - 建国年月日
- 1949年10月1日
- 面積
- 約9,600,000平方キロメートル
- 人口
- 約1,411,750,000人(2022年時点)
- 公用語
- 中国語(普通話)
- 民族
- 漢民族(約92%)、その他55の少数民族
- 宗教
- 無神論者が多数、仏教、道教、イスラム教、キリスト教など
- 通貨
- 人民元 (CNY)




