ガボン共和国の国歌「ラ・コンコルド(La Concorde)」は、その名が示す通り「協調」を意味します。アフリカ中部、豊かな熱帯雨林に覆われたこの国の国歌は、多くの国で一般的な公募ではなく、一人の人物によって作詞作曲されたという点で非常にユニークです。 いかにしてガボンは独立を勝ち取り、国民の願いと未来への希望が込められたこの歌が、誰によって、どのように生み出されたのでしょうか。その歴史的背景と、込められたメッセージを紐解きます。
- 国名
- ガボン共和国
- 曲名
- 日本語:ラ・コンコルド(協調)
英語:La Concorde (The Concord)
フランス語:La Concorde - 作曲者
- 日本語:ジョルジュ・アレカ・ダマス
英語:Georges Aleka Damas
フランス語:Georges Aleka Damas - 作詞者
- 日本語:ジョルジュ・アレカ・ダマス
英語:Georges Aleka Damas
フランス語:Georges Aleka Damas - 採用時期
- 1960年8月17日
- キー (調性)
- Gメジャー(ト長調)
- 拍子
- 2/4拍子
独立の象徴:「ラ・コンコルド」誕生の背景
アフリカ大陸の西岸、赤道直下に位置するガボンは、国土の約85%が熱帯雨林に覆われた自然豊かな国です。石油や鉱物資源に恵まれ、アフリカの中でも比較的経済的に豊かな国とされています。しかし、この国はかつてフランスの植民地でした。
15世紀からヨーロッパとの交易はあったものの、本格的な植民地化は19世紀後半、ヨーロッパ列強によるアフリカ分割の波の中で進みました。ガボンは、チャド、ウバンギ=シャリ、フランス領コンゴと共に「フランス領赤道アフリカ」の一部として支配されます。
第二次世界大戦後、アフリカ各地で独立の機運が高まる中、ガボンは自治権を獲得し、ついに1960年8月17日、フランスからの完全独立を達成しました。この新たな国家の誕生に、国民は大きな希望を抱きました。その希望を象徴し、国民の心を一つにするために制定されたのが、国歌「ラ・コンコルド」です。
この国歌は、ガボンの独立という歴史的な瞬間を描き出し、未来への決意を示すとともに、多様な民族が「協調」と「友愛」の精神のもとに団結し、共に発展していくことへの願いが込められています。
—
国歌を生み出したユニークな人物:ジョルジュ・アレカ・ダマス
「ラ・コンコルド」の作詞と作曲を一身に担ったのは、ジョルジュ・アレカ・ダマス(Georges Aleka Damas) 氏です。多くのアフリカ諸国が国歌を公募したり、複数の人物が協力して制作したりしたのに対し、ガボン国歌が彼一人によって生み出されたのは極めてユニークな点です。
1902年、ガボンの首都リーブルビルに生まれたダマス氏は、フランス語圏の教育を受け、銀行員や海運会社の主任簿記係として実社会での経験を積む中で、ガボンの独立運動に関わるようになりました。彼は、リーブルビル市議会議員やフランス共同体の経済社会評議会ガボン代表を務めるなど、独立前からガボンの政治・社会におけるキーパーソンの一人でした。独立後も外交官や議会議長を歴任し、ガボンの発展に大きく貢献しました。
専門的な音楽教育を受けたという明確な記録はありませんが、ダマス氏は趣味として音楽活動に深く打ち込み、地元のクラブで演奏もしていたと言われています。この音楽への深い情熱と、天賦の才が、彼が多忙な公職の傍らで「ラ・コンコルド」のような力強く、国民の心に響く国歌を生み出す原動力となったと考えられます。彼の幅広い経験と、祖国への深い愛情が結実した作品と言えるでしょう。
歌詞に込められたメッセージ:独立、団結、そして未来への希望
「ラ・コンコルド」の歌詞は、独立を勝ち取ったばかりの新しい国家が抱く、希望、平和、そして国民の団結への強い願いが込められています。
| フランス語 (原語) | 英語訳 (試訳) | 日本語訳 (意訳) |
|---|---|---|
|
Refrain: Unis dans la Concorde et la Fraternité Éveille-toi, Gabon, une aurore se lève, Stoppe l’effroi qui frémit et qui nous mine, Liberté, la sainte clarté qui nous mène, Stoppe l’effroi qui frémit et qui nous mine. |
Chorus: United in Concord and Fraternity, Awake, Gabon, a dawn is breaking, Stop the fear that trembles and undermines us, Freedom, the sacred light that guides us, Stop the fear that trembles and undermines us. |
コーラス: 協調と友愛の中に団結し、 目覚めよ、ガボン、夜明けが訪れる、 私たちを揺るがし、蝕む恐怖を止めよ、 自由、聖なる光が私たちを導く、 私たちを揺るがし、蝕む恐怖を止めよ。 |
|
I Stoppe l’effroi, qui frémit et nous mine, C’est à nous tous de bâtir le Gabon de demain. Liberté, la sainte clarté qui nous mène, La dignité, la paix, la justice nous inspirent. |
I Stop the fear that trembles and undermines us, It is up to all of us to build the Gabon of tomorrow. Freedom, the sacred light that guides us, Dignity, peace, justice inspire us. |
I 私たちを揺るがし、蝕む恐怖を止めよ、 明日のガボンを築くのは私たち皆の役目だ。 自由、聖なる光が私たちを導く、 尊厳、平和、正義が私たちを奮い立たせる。 |
|
II Unissons nos voix, unissons nos coeurs, Pour le bonheur de nos enfants et la gloire de notre Patrie. Le travail, le courage, la foi nous inspirent, Forêt bâtir un Gabon grand et prospère. |
II Let us unite our voices, unite our hearts, For the happiness of our children and the glory of our Homeland. Work, courage, faith inspire us, To build a great and prosperous Gabon. |
II 私たちの声を一つに、心を一つにしよう、 子供たちの幸福と祖国の栄光のために。 勤勉、勇気、信仰が私たちを奮い立たせる、 偉大で豊かなガボンを築くために。 |
重要なフレーズの解説
-
「目覚めよ、ガボン、夜明けが訪れる」
これはフランスによる植民地支配からの解放を告げる力強い言葉です。独立という新たなスタートラインに立ち、未来への希望に満ちた国民への呼びかけです。
-
「協調と友愛の中に団結し」
国歌のタイトルにもなっている「ラ・コンコルド(協調)」は、ガボンが多様な民族から構成される国家であることを踏まえ、国民の統一と協力の重要性を強調しています。内部分裂を避け、国家建設に向けて一体となることへの強い願いが表現されています。
-
「私たちを揺るがし、蝕む恐怖を止めよ」
過去の抑圧や、独立後の不安定な情勢に対する不安を乗り越えようとする強い意志が表れています。平和で安定した国家を築きたいという願いの表れです。
-
「明日のガボンを築くのは私たち皆の役目だ」
新しい国家の未来は、国民一人ひとりの努力にかかっています。自立した国家を建設していくという自覚と責任感を促すメッセージです。

beach near ENEF / brian.gratwicke
「ラ・コンコルド」の音楽と国民の誇り
「ラ・コンコルド」の旋律は、Gメジャー(ト長調)で、2/4拍子とされています。荘厳でありながらも、独立の喜びと未来への力強い希望を感じさせる明るさを持ち合わせています。この音楽は、ガボンの人々の心に深く浸透し、国家的な行事やスポーツの試合など、国民が一体となる場面で歌われ、誇り高き国民のアイデンティティを象徴しています。
西洋音楽の形式を取り入れつつも、どこかガボンの大地の力強さを感じさせるような響きを持つとも評されています。長年ガボン国民に歌い継がれてきたこのメロディは、彼らの愛国心と文化的なアイデンティティを育む上で重要な役割を果たしています。

Sunset Libreville / brian.gratwicke

The turtle after laying / brian.gratwicke
共和国の国歌「協調」(La Concorde)の視聴
演奏バージョン。
合唱バージョン。
文化的意義と結び:国歌「ラ・コンコルド」が伝える精神
ガボン国歌「ラ・コンコルド」は、単なる国家の象徴に留まらず、ガボンの国民が共有する歴史的経験、そして未来への揺るぎない希望と決意を力強く表現しています。特に、作詞作曲をジョルジュ・アレカ・ダマス氏が一人で手掛けたことは、彼の多才さと、ガボンの政治・社会におけるキーパーソンとしての役割の大きさを物語っています。 この歌は、多様な背景を持つ国民が「協調」と「友愛」の精神のもとに手を取り合い、持続可能な発展を目指すという、ガボンの国家としての理想を映し出しています。
豊かな自然に恵まれながらも、複雑な歴史を乗り越えてきたガボン。その国歌は、私たちに、歴史を乗り越え、協調の精神を持つことの大切さを教えてくれるでしょう。
—
ガボン共和国の概要
- 正式名称
- 日本語:ガボン共和国
英語:Gabonese Republic
フランス語:République Gabonaise - 首都
- リーブルビル
- 独立年月日
- 1960年8月17日
- 面積
- 約26万7,667平方キロメートル(日本の約3分の2)
- 人口
- 約250万人(2023年時点)
- 公用語
- フランス語
- 民族
- ファン、バプヌ、ンゼビ、オバムバ、ドゥーマなど多様
- 宗教
- キリスト教(カトリック、プロテスタントなど)、伝統的宗教、イスラム教
- 通貨
- CFAフラン (XAF)




